GMOグローバルサイン・ホールディングスCTO室の井上です。近年、身分証明書などをスマートフォンに保存し管理できるデジタルIDウォレットが注目されています。本記事では、デジタルIDウォレットの基本的な概念、世界各国におけるその開発状況、そして普及に向けての課題について解説します。
デジタルIDウォレット
デジタルIDウォレットとは、ユーザーの個人情報や身分証明情報をデジタル化して保管し、必要に応じて容易にアクセスできるよう設計されたツールです。このツールはスマートフォンなどの携帯デバイスにインストールされ、パスワードや生体認証を通じてアクセスが可能で、身分証明を行う際に利用されます。主な保管情報は以下の通りです。
- 政府発行ID
- 運転免許証
- 健康保険証
- 学歴証明書
- 保有資格証明書
- 金融口座情報 など
各国の開発状況
EU
EUは機関としての役割を活用して、デジタルIDウォレットの発行に対する取り組みを積極的に推進しています。2021年6月に発表されたeIDAS2.0という規制により、EU加盟国はデジタルIDウォレットの発行体制の確立を義務付けられています。
このデジタルIDウォレットは、公的サービスから民間サービスまで、幅広く利用されることを目指しています。例えば、出生証明書や医療診断書の取得、住所変更の届け出、納税関係の手続きなどの公的サービスに利用することはもちろん、銀行口座の開設やレンタカーの利用、ホテルでのチェックインなどの民間サービスにも利用が想定されています。
EUデジタルIDウォレットコンソーシアムは、このようなEU全域で相互利用可能なデジタルIDウォレットの開発を主導しています。
インド
インドではDigiLockerという電子書類管理プラットフォームが運用されています。DigiLockerは運転免許証や卒業証明書などの各種公式文書を電子化して保管、アクセスすることが可能で、Webポータルやモバイルアプリを通じて利用することが可能です。DigiLockerは、インドの国民識別番号であるAadhaarと連携し、各ユーザーにAadhaar番号に紐付けられた専用のクラウドストレージスペースを提供しています。
アメリカ
アメリカではIT企業主導でのデジタルIDウォレットの開発が進んでいます。
一部の州でApple Wallet、Google Wallet内での州発行IDや運転免許証の保持が可能となっています。
Apple launches the first driver’s license and state ID in Wallet with Arizona
Google Wallet is getting custom cards and state IDs this month
日本
デジタル庁のトラストを確保したDX推進サブワーキンググループにおいて国際通用性を持ったデジタルIDウォレットについて継続的に検討を行うべきであると報告されています。
デジタルIDウォレットの関連組織
デジタルIDウォレットの標準化と相互運用性のために以下の団体が活動しています。
Open Wallet Foundation
- デジタルウォレットの相互運用性を促進する組織
- Linux Foundation Europeが設立
OpenID Foundation
- デジタルIDとユーザー認証に関する標準化のための組織
ISO(国際標準化機構)/IEC(国際電気標準会議)
- 産業に関わる国際標準規格を策定する組織
以下がモバイルIDウォレットに関連する標準規格
1. ISO/IEC 18013-5: モバイル運転免許証(mDL)
2. ISO/IEC 24670: IDマネージメント
3. ISO/IEC 29115:エンティティ認証保証
4. ISO/IEC 23220: モバイルデバイスでの個人ID管理
普及への課題
- プライバシーとセキュリティ
特に紛失や盗難により第三者に漏洩しないような強固なセキュリティ体制が必要となります。 - 標準化と相互運用性
特にグローバルに展開する場合、各国間でのシームレスな連携が可能となるように、技術の標準化や互換性の確保が必要となります。 - 法規制と慣習
既存の法律や社会の慣習に適合するように、その設計や運用が求められます。
最後に
本記事では、デジタルIDウォレットの基本的な概念、世界各国での開発状況、関連する組織、そして普及に向けた課題について説明しました。次回以降の記事では、デジタルIDウォレットを可能にする技術について詳しく見ていきます。