ステーブルコインの概要とテストネットでのUSDCの使用について

はじめに

GMOグローバルサイン・ホールディングスCTO室の井上です。ブロックチェーン技術に関する調査や実証実験を担当しています。今回は、暗号資産の一種であるステーブルコインの概要を説明した後、普及が進んでいるステーブルコインの一つであるUSD Coin(USDC)を、テストネット環境で発行し、送金する方法をご紹介したいと思います。

ステーブルコインとは

ステーブルコインとは、価格の安定性を保つことを目的とした暗号資産(仮想通貨)です。ビットコインに代表される従来の暗号資産は価格の変動が激しく、日常的な取引や価値保存手段として使いにくいことが課題でした。これに対して、ステーブルコインは特定の法定通貨(米ドルなど)や資産(金など)に価値を連動させることで、価格の安定性を保つように設計されています。以下に、ステーブルコインの主な特徴を説明します。

  1. 価格の安定性
    ステーブルコインは、その名の通り、価値を安定させることを目的とした仮想通貨です。価格が特定の資産(通常は米ドルなどの法定通貨)にペッグ(連動)されるように設計されています。これにより、ビットコインやイーサリアムなどの価格変動が激しい仮想通貨とは異なり、日常的な取引や決済に利用しやすいという利点があります。
  2. 裏付け資産の種類
    ステーブルコインは、その価値を担保する方法によって以下のように分類されます。

    • 法定通貨担保型: Tether(USDT)やUSDCなど、発行量と同額の法定通貨(通常は米ドル)を準備金として保有し、これを裏付けにステーブルコインを発行します。
    • 暗号資産担保型: Dai(DAI)のように、担保としてビットコインやイーサリアムなどの暗号資産を利用します。この場合、価格の変動に対応するために、通常は超過担保を必要とします。
    • 無担保(アルゴリズム)型: 特定の担保を持たず、アルゴリズムを使って供給量を調整し、価格を安定させます。代表例としてAmpleforthなどが挙げられます。
  3. 流動性の高さ
    ステーブルコインは、仮想通貨市場だけでなく、分散型金融(DeFi)や国際送金、オンラインショッピングなど、幅広い分野で利用されています。例えば、USDTやUSDCは、日常的な決済やトレードの手段としても広く採用されています。また、国際送金においては、従来の銀行送金に比べて迅速かつ低コストであるため、特に人気があります。
  4. 規制への対応
    ステーブルコインは、規制対応が進んでいることも特徴です。USDCなどのステーブルコインは、定期的に監査され、資金の裏付けが確認されています。また、多くのステーブルコイン発行体が、KYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング防止)のための対策を講じており、規制当局との連携も進んでいます。
  5. DeFiでの利用
    ステーブルコインは、分散型金融(DeFi)においても重要な役割を果たしています。DeFiプラットフォーム上で流動性プールに預けたり、貸し借りに利用することで、ユーザーは利息や報酬を得ることができます。価格が安定しているため、投資リスクを抑えた運用が可能です。

このように、ステーブルコインは、安定性、流動性、規制対応の高さから、仮想通貨や伝統的な金融の両分野で広く利用されています。

ステーブルコインの市場動向

2024年におけるステーブルコイン市場は、引き続き成長を見せています。以下が主な動向です。

  1. 市場の成長
    ステーブルコインの市場規模は、2024年中頃で約1,650億ドルに達しました。その中でも、Tether(USDT)が最大のシェアを持ち、時価総額は1,140億ドルを超えています。次いでUSD Coin(USDC)が約330億ドル程度で、この2つが市場の大部分を占めています。

  2. 多様な分野での利用拡大
    ステーブルコインは、分散型金融(DeFi)や国際送金の分野で特に重要な役割を果たしています。DeFiでは、流動性プールやレンディングプロトコルにおいてステーブルコインが大半の取引を占め、安定した価値を持つ資産として利用されています。また、国際送金においてもステーブルコインが活用されており、低コストかつ迅速な取引が可能になったため、利用が増えています。

  3. 規制の進展
    テラUSD(UST)の崩壊などの事例をきっかけに、ステーブルコインに対する規制が強化されています。特にUSDCのような法定通貨担保型ステーブルコインは、アメリカやヨーロッパで進行中のMiCA(Markets in Crypto-Assets)法などの規制枠組みの下で信頼性を維持しています。このような規制は、ステーブルコイン市場の透明性を向上させ、利用者や投資家の信頼をさらに深める方向に進んでいます。

  4. ボラティリティと安定性
    USDTやUSDCなどの主要ステーブルコインは比較的安定した価格を維持していますが、新しいアルゴリズム型ステーブルコインは、市場の不確実性が高まる時期にはペッグを維持しづらい傾向にあります。

このように、ステーブルコインはDeFiの分野のみならず、従来の金融領域でも利用が拡大しており、今後も成長が見込まれています。

USDCについて

USDC(USD Coin)は、米ドルに1:1で連動する法定通貨担保型のステーブルコインです。Circle社とCoinbaseによる共同プロジェクトであるCentre Consortiumによって発行され、ブロックチェーン上での安定した取引手段として広く使用されています。以下に、USDCの主要な特徴を紹介します。

  1. 価格安定性
    USDCは1USDCが1米ドルにペッグされており、常にその価値を維持することを目指しています。これにより、暗号資産市場のボラティリティに影響されることなく、ユーザーは安定した取引手段として利用できます。

  2. 透明性と準備金
    Circle社は、発行されたUSDCと同額の米ドルやそれに準じた資産を準備金として保有しています。この準備金は定期的に監査され、その結果は公開されるため、ユーザーはUSDCに確実な裏付けがあることを確認できます。Circle社は監査報告書を提供することで、透明性を高めています。

  3. 規制対応
    USDCは、アメリカ、ヨーロッパおよびその他の国々での規制を遵守するよう設計されています。特に、KYC(本人確認)やAML(マネーロンダリング防止)規制に準拠しており、信頼性の高いステーブルコインとして多くの企業や投資家に利用されています。

  4. 多様な利用用途

    • 決済手段:USDCを商品やサービスの支払い手段として利用できる店舗やプラットフォームが徐々に増えています。
    • 国際送金:USDCを使うことで、低コストで迅速な国際送金が可能です。
    • DeFi(分散型金融):USDCはDeFiプロジェクトにおいて、流動性提供、レンディング、ステーキングなどで重要な役割を果たしています。安定した価値を持つため、リスクを最小限に抑えつつ高利回りを目指す投資家に好まれています。
  5. 成長と普及
    USDCは現在までに時価総額約330億ドルに達し、USDTに次ぐ時価総額第2位のステーブルコインとなっています。USDCは、特に規制に厳しい国々での信頼が厚く、今後もその利用範囲が拡大すると予想されています。

  6. 開発者向けツールの提供
    Circle社は、開発者向けに以下のようなツールを提供しています:

    • Circle API: USDCの発行、償還、送金などの機能を利用可能。
    • SDK: 主要プログラミング言語向けのソフトウェア開発キット。
    • ドキュメンテーション: 詳細な技術ドキュメントと開発ガイド。

これにより、USDCを活用したサービスやアプリケーションの開発が容易になり、開発者がブロックチェーン上での取引やアプリケーションにUSDCを統合しやすくなっています。

テストネットでのUSDCの発行と送金

この章では、Circle SandoboxとEthereumのテストネットの一つであるSepoliaテストネットを利用して、テスト用のUSDCを発行して送金するまでの方法を紹介します。

USDCの発行や送金のテストは、USDTのテスト環境であるCircle Sandboxを利用すること実行できます。Circle Sandboxは、Circle社が提供するUSDCのテスト環境で、実際の金融取引を発生させることなく、本番環境と同様にUSDTのテストが可能です。Circle Sandboxは、Ethereumブロックチェーン環境としてSepoliaテストネットを利用しています。Sepoliaテストネットは、Ethereumのテストネットの一つで、実際のEthereumメインネットワークと同様の機能を持ち、テスト用の仮想通貨(ETH)やステーブルコインなどのERCトークンの取引を実行できます。

以下に、テスト用USDCの発行と送金の手順を説明します。

1. Circle Sandboxアカウントの作成

まず、Circle Sandboxでアカウントを作成します。サインアップ後、開発者向けダッシュボードにアクセスできるようになります。

2. Sandbox APIキーの取得

ダッシュボードから、テスト環境用のSandbox APIキーを取得します。このAPIキーを使って、開発環境でAPIを呼び出してテストします。

3. APIキーの設定

CircleのAPIは、USDCの発行、送金、受け取り、管理を行うためのさまざまなエンドポイントを提供しています。取得したSandbox APIキーを使って、様々な操作を実行できます。取得したAPIキーをCircle開発環境APIプレイグラウンドに設定します。

4. USDCの発行

  • APIプレイグラウンドのUSDC発行(カード払い)で、架空のクレジットカードからの入金により、USDCを発行します。

  • ダッシュボードでUSDCが発行できたことが確認できます。

5. USDCの送金

  • 発行したUSDCは任意のEthereumアドレスに送金することが出来ます。USDCの送金にはダッシュボードのTrnsfer機能を利用します。

  • 送付先を指定します。任意のEthereumアドレスを指定することができます。

  • 送金したいUSDCの金額を指定します。

  • Transferを押下して送金を実行します。

  • Etherscanにて指定したEthereumアドレスへの送金が完了していることが確認できます。
    (Etherscanは、Ethereumブロックチェーン上のトランザクションやアドレス、スマートコントラクトのデータを確認・追跡できるブロックチェーンエクスプローラーです。)

USDCはERC-20トークン規格に準拠しているため、Ethereumブロックチェーン上で標準的なERC-20トークンとして動作します。このため、Ethereumのスマートコントラクト開発にUSDCを統合することができます。また、Web3.jsやEthers.jsのようなEthereum用のライブラリを使えば、DApps内でUSDCの送受信や他のスマートコントラクトとのやり取りも簡単に実装することが可能です。

おわりに

本ブログでは、価格の安定性を保つことを目的とした暗号資産であるステーブルコインについてと、主要なステーブルコインであるUSDCについて説明しました。そのあとに、USDCの発行元であるCircle社が提供する開発者向けのテスト環境を利用して、Sepoliaテストネットでの、USDCの発行、送金の機能を紹介しました。
最後まで読んでくださりありがとうございました。

参考