より正確な位置情報を取得するVPSについて

  • 2025-01-17
  • XR
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こんにちは。GMOグローバルサイン・ホールディングスの城戸(@sutobu000)です。
普段はビジュアルシステムの研究開発やインハウスでの映像制作・配信を担当しています。

今回は、AR(拡張現実)に関連する「VPS(ビジュアルポジショニングシステム)」について詳しく紹介します。

VPSとは

VPSは画像情報を利用して位置情報を特定するシステムであり、事前に作成された3Dマップやデータベースを基に、デバイスのカメラで取得した画像から周囲の環境を認識し、現在地や向きを特定します。
この技術は、特に精度が求められるARアプリケーションにおいて有用であり、GPS以外の位置特定技術として注目されています。

まずはVPSについて説明する前に、ARやGPSについて簡単に触れたいと思います。

AR(Augmented Reality)とは

ARはAugmented Realityの略で、日本語では「拡張現実」と訳されます。
この技術は、現実の環境に仮想の情報や画像を重ね合わせることで、ユーザーに新たな体験を提供します。具体的には、スマートフォンを通じて現実の風景にデジタルオブジェクトを重ねたり、特定のマーカーを読み込むことでキャラクターを表示させたりといった使い方が可能です。

VRとARの違い

ARとよく比較されるのがVR(Virtual Reality)です。
VRはユーザーを完全にデジタル空間に没入させる体験を提供します。一方、ARは実際の風景に情報を加える技術です。以下にそれぞれの特徴を示します。

  • VR (Virtual Reality):
    • ユーザーはVRゴーグルを装着し、計算機生成された世界にいる感覚を得ます。主にゲームやシミュレーション、トレーニングに使われます。
  • AR (Augmented Reality):
    • ARは現実世界を「拡張」する技術であり、ナビゲーション、教育、エンターテインメント、工業設計など多様な分野で利用されています。
  • MR (Mixed Reality):
    • MRは現実と仮想を融合させた体験を提供します。デバイスのカメラやセンサーが実際の環境を捉えることで、仮想オブジェクトが現実と相互作用できるため、教育や設計プロセスでの活用が期待されています。

ARとMRの違い

ARとMRはどちらも現実環境に干渉していますが、以下の点で異なります。

  • AR:
    • 実世界に仮想情報を重ねて表示しますが、ユーザーが仮想情報に直接触れて相互作用することはできません。
  • MR:
    • 仮想情報が現実の環境に密接に関わり、ユーザーが物理的に相互作用できる体験を提供します。

ARは特定のデバイスを必要とせず、スマートフォンなどで簡単に体験できるため、開発から実験までのコストが比較的低いことも特徴の一つです。

ARの活用事例

AR技術は、観光地での情報提供アプリ、教育現場でのインタラクティブ教材、DIYやメンテナンス作業を支援するアプリなど、多くのシーンで活用されています。しかし、AR技術には精度や実用性に関する課題もあります。

ARにおけるGPSとVPS

AR技術で位置情報を取得する際、一般的に使用されるのがGPS(Global Positioning System)です。GPSは人工衛星からの信号を受信して位置情報を特定するシステムです。

ここでいうGPSは一般的な用語として広く使われていますが、実際にはアメリカが運用する衛星システムに特有の名称であり、もっと広義の概念を含む「GNSS(Global Navigation Satellite System)」という用語があります。
GNSSは、世界中の多くの国によって運営されるさまざまな衛星ナビゲーションシステムを指し、多数の衛星を利用して位置情報を提供します。このため、特定の衛星システムに依存せず、各地域で利用可能な衛星を活用することができます。

例えば、アメリカではGPSが運用されていますが、日本では「みちびき」という衛星システムが利用されており、現在の日本での位置情報サービスはGPSだけでなくこのみちびきを利用しています。

GNSS(単独測位) GNSS(相対測位) VPS
測位 単独測位* 相対測位* 画像による測位
特定方法 複数の衛星から受信する未知点を特定 衛星から既知点を参照し未知点を特定 画像情報を基にした位置情報取得
精度 数m程度 数cm程度 数cm程度
屋内 難しい 難しい 比較的有効
環境 野外、開けた場所 野外、開けた場所 特定エリア、限定的な環境

*単独測位と相対測位について

  • 単独測位(Standalone Positioning):
    • 複数の衛星からの信号を利用して、受信機が自身の位置を特定する方法。単一の受信機が衛星から直接情報を取得し、位置を算出しますが、都市部や障害物が多い環境では信号が遮断されやすく、精度が低下することがあります。通常、精度は数メートル程度です。
  • 相対測位(Differential Positioning):
    • 既知の位置に設置された基準局(固定点)からの情報を利用して、受信機の位置をより高い精度で特定する方法。基準局が衛星信号を受信し、そのデータを用いて補正信号を送信することで、周囲の移動体の位置を正確に特定します。精度が数センチメートルにまで向上することができますが、基準局との距離や環境によっては、信号が受信できない場合もあります。

参考: GNSS測位とは | 国土地理院

GPSの課題

GPS(GNSS)の主な課題は以下の通りです:

  • 精度の低下:
    • 建物や障害物が多い都市部や屋内ではGPS信号が乱れ、時に不正確な位置特定を引き起こします。
  • 立体的な位置情報の不足:
    • 3D空間での位置特定が難しく、特に高層ビルや地下での正確な位置把握が課題です。
  • 電波状況の影響:
    • 雲や悪天候、地下、狭い通路などで信号受信状況が悪化し、位置情報取得が困難になることがあります。

これらの問題を解決する技術として、VPS(Visual Positioning System)が注目されています。

VPSのメリット

  • 高精度な位置特定:
    • VPSは3Dマップを基に周囲を認識するため、GPSよりも高精度に位置を特定できます。
  • マーカー不要:
    • 特定のマーカーがなくても、周囲のランドマークや環境を基に位置を判断できます。
  • 屋内外を問わない:
    • GPSが苦手とする屋内でも、高い環境認識能力を発揮します。

事前にエリアマップデータなどが必要ではありますが、それらが整備されていれば高精度な位置特定が可能です。特に、通信が届きづらい屋内での利用において、その優位性が際立ちます。

VPSの仕組み

VPSがどのように位置を特定するのか、その仕組みを簡単に説明します。

  1. 画像取得:
    • デバイスのカメラが周囲を撮影し、特徴的な要素(看板、模様など)を記録します。
  2. 特徴点抽出:
    • 撮影した画像から特徴点を検出して、特異なパターンや形状を捉えます。
  3. マッチング:
    • 抽出された特徴点を事前に取得したマッピングデータと照合し、環境内での位置を推定します。
  4. 位置推定:
    • マッチング結果を基に位置を特定し、複数のマッチングから最も信頼性の高い位置情報を選択します。
  5. 更新:
    • デバイスが移動する際には、リアルタイムで情報を更新します。

この全てのプロセスを繰り返すことで、位置を高精度に特定することが可能です。既存のVPSを活用したアプリケーションでは、GPSの大体の場所を把握した後にVPSを用いてより詳細な位置を特定するというケースが多く見受けられます。

ARでのVPSの活用

VPS技術はARにおいて特に活用される場面が多いと感じます。

例えば、観光地において、VPSを利用したアプリは観光客にリアルタイムで情報を提供することも可能です。カメラを通して周囲を見渡すと、名所や歴史的建物の詳細が表示されるほか、ナビゲーション機能も搭載されており、目的地までの最適なルートを示してくれます。GPSでも位置の特定はできますが、見ている方向や高度など詳細な位置についてはVPSを使うことでより精度の高い体験を提供することができそうです。

家庭や工場でのDIY作業、または設備のメンテナンスにおいても、VPSが活用することはできそうです。自身が作業している環境において、修理や組み立ての手順が画面上に表示され、正しい方法で作業を進めることができるといったサポートも期待できます。

商業施設でもVPSを利用したナビゲーションサービスを展開することもできます。モール内や大型店舗で、来店客は特定の商品への経路をリアルタイムで表示することができ、効率的に買い物を進めることができます。

終わりに

VPS技術は現在注目されている技術であり、機械学習やコンピュータビジョンといった先進技術に支えられています。これにより、リアルタイムでの位置情報提供がさらに発展することが期待されます。特に、スマートシティやIoTの進展に伴い、VPSの利用が拡大するでしょう。

VPS技術を活用するには、事前に3Dマップなどのデータを準備する必要がありますが、近年ではLiDARセンサー搭載のデバイスや、PLATEAUプロジェクトが提供する3Dモデルなどを用いることで、データ収集が容易になっており、そのハードルは下がりつつあります。

また、XR(Extended Reality)分野として、AR、VR、MRは年々進化を遂げています。デバイスに関しては、特にVRが盛り上がりを見せていますが、ARのデバイスも開発が進んでいます。今後もこの分野はますます活発になることが予想されます。

今回お話ししたVPS技術も、ARの新たなデバイスの登場によって普及が加速したり、地下施設など通信環境が限られた場所でも高精度な案内が可能になるなど、多様なアプリケーションへ展開されて私たちの生活に密接に関連していくことが期待できる技術です。